なぜ竜王絵巻は描かれたのか
にぎわいを取り戻し、
津波の教訓を語り継ぐために
1.津波から地域を守る海岸堤防で失われた
飯岡海岸の原風景
九十九里浜の最東端として砂浜が続く千葉県旭市の飯岡海岸。地元の人々にとって、海岸沿いの県道越しに望む太平洋の海と砂浜は、幼い頃からの遊び場であり、故郷の原風景でした。
平成23年3月11日、東日本大震災による津波が飯岡の海岸沿いを襲いました。最大で高さ7.6mに達した津波などによる死者・行方不明者は16名に及びました。その後、津波から街を守る海岸堤防の建設が始まりました。堤防は地域の人々に安心安全をもたらした一方で、海の風景を人々の視界から遮ってしまったのです。
2.YOU遊フェスティバル30周年に向け、
100mの壁画を描く企画が始動
尊い命を奪った津波の忌まわしい記憶と海岸堤防によって生まれた無機質な壁。その風景に閉塞感を感じていた地元の人々は壁を彩ることで、海岸にかつてのにぎわいを取り戻すとともに、津波の教訓を語り継げないかと考えました。
そこで、飯岡海岸で毎年開かれる花火大会を運営する旭市いいおか YOU・遊フェスティバル実行委員会のメンバーが30周年を迎える平成30年夏に向けて壁画企画を始動。
旭市出身の画家すずきらなさんの参加を得て、津波被災の石碑近くの海岸堤防100mに壁画を描くプロジェクトに取り組み始めました
3.地元の伝説から着想を得た「竜王」を
壁画のモチーフに
壁画のテーマである竜は、堤防の東端にある「竜王岬」から着想を得たもの。
飯岡には、大和武尊が海難に遭って上陸し、玉崎神社に海神の娘、玉依姫を祀った伝説があり、「竜王のしずまり坐す崎」という言葉から竜王岬と名付けられたといいます。
作画を担当したすずきらなさんは、壁画を絵巻に見立て、海の守り神である竜王が様々な風景を翔け抜けながら、未来へ向かって躍動する様子をダイナミックな絵柄として考案しました。
7月末のYOU遊フェスティバルでの完成披露に向け、猛暑の中「竜王絵巻」の制作が続きました。
4.市民参加で完成した竜王絵巻の物語を
描き継いでいきたい
平成30年7月15日、市内の小学生たち100名が壁画の「虹」「花火」「朝日」を手がたによって描いていました。サポートするのは近隣にある匝瑳高校の美術部の部員たちです。
7月28日のYOU遊フェスティバル初日、最後の手がたを描き入れ壁画は完成しました。
竜王絵巻は今、飯岡海岸を訪れる人々を魅了する観光スポットとして注目を浴び始めています。
海岸堤防の東端「竜王岬」までは2km。
竜王絵巻の物語は始まったばかりです。
海岸堤防から未来を考える会では、今後も津波の教訓を語り継ぎ、壁画の物語を描き継いでいきたいと思います。